【ごっさん通りの光と陰】
バー“おぼろ月夜”にかようようになってまだ間もない頃、僕がお店で飲んでいる間にひとりも客が現れない晩があった。その日は夕方に嵐のような雨が降ったが、夜にはすっかり上がり、空を流れてゆく重々しい黒い雲の裂け目から星が美しくまたたき、雨上がりのひんやりとした空気とヒグラシの鳴き声に気持ちが洗われるような、そんな初秋の宵だった。
トモさんは、客がないことを別に気にしている風でもなく、カウンターの中にのん気に腰掛けながら、はじめのうちは好きな音楽のことなどを話していた。
“ところで、キミんとこのジイサンから聞いてる?ここらで起きてる厄介ごとの話を。”出し抜けにトモさんが声を細めて言った。
“いいえ…、何かあるんですか?”
“ここらではさ、ちょっとした抗争があるんだよ。”
“コウソウ…?”
“ソウソウ…、ジョーさんっていう、何ていうか…、チンピラくずれみたいのがいるんだけどね…。”
[小説 ごっさん通り 第2話]の続きを読む
- 2007/05/31(木) 22:22:39|
- 小説 ごっさん通り|
-
トラックバック:0|
-
コメント:0
【バー“おぼろ月夜”】
僕が住む街に“ごっさん通り”という200メートルにも満たないさびれた通りがあった。
すぐ近くに近未来的な高層ビルディングが立ち並び、昼夜を問わず多くの人々が行き交う商店街から1本はずれていただけなのに鋪装さえされていない細い路地で、昭和50年代くらいから時代に置き去られてしまったようなその通りは、軒先にちょっとした樹木を植えたところが多く、ひと時期の赴きを偲ばせながらも、客足の途絶えた古風な旅館をはじめ、いくつかの店がひっそりと営業しているものの、あとは朽ちかけた家々や銭湯の跡などが立ち並んでいた。
[小説 ごっさん通り 第1話]の続きを読む
- 2007/05/12(土) 00:08:52|
- 小説 ごっさん通り|
-
トラックバック:0|
-
コメント:0